―― 痛さと悔しさで、ボロボロと泣けてきた。
- ドイツのチームでは、日本での練習環境と大きな違いを感じましたか?
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練習時間が日本の3分の2くらいなんですよね。ホンダ時代は3時間前後やっていましたけど、向こうはパッと集まって、2時間スパッとやって、パッと終わる。日本だとホンダのハンド部専用の体育館なので僕らが自由に使えるけど、向こうはクラブチームで所有しているので、僕らがハンドをやった後、違う種目のスポーツチームが入ってくるんですよね。そういう事情もあって、練習時間が短いんです。
あとはやっぱり、日本だといくら「プロ意識を持とう」と自分で思っていても、結局のところはプロじゃないじゃないですか。僕が日本でやってたチームに限っては、普通に仕事の対価としてのサラリーをもらう仕組みになっているわけで、日本一になっても、逆に1試合も出なかったとしても、給料は一緒なんですよね。
でも、ドイツではハンドボールの選手としてのサラリーがあって、プラス勝ち点を取ったらいくらというインセンティブがつく。純粋に、ハンドでどれだけ活躍できるかだけが評価の対象になる。笑ってしまうんですけど、僕がチーム最多の11得点をあげて、チームが勝利した翌日に、新しい洗濯機がスポンサーから届いたこともありました。
向こうに行ってみて、日本リーグでプロ意識を持つことと、実際にプロになることは、まったく違うんだなというのは感じました。
- ドイツでは大きなケガもされたとのこと、どういう状況でけがをされたのですか。
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真ん中のプレーヤーと大きくクロスして、真ん中へ回ってシュートを打とうとしたら、身長2mくらいの大きなディフェンスが接触してきたので、シュート打たずにいったんボールをさばいたんです。
で、「パスが返ってくるから立たないと……」と思った瞬間に、左膝の靭帯を断裂してしまったんです。自分の左足、膝から下があり得ない方向に曲がってしまった。でも、興奮してるんで、ちょっとわけがわからない。あれ、なんか立たなあかんけど、完全に足おかしいなと思って。
よく交通事故に遭ったときに、時間がゆっくり流れるって言うじゃないですか。本当にああいう感じで、痛いとかは全然なくて、うわっパス返ってくるし、でも膝こんなんやし、うわっ、おれこれもう絶対あかんわ、引退やとか、生活できへんようになるとか、クビになるとかがずっとグルグルグルグル頭の中で回って、やばいやばいやばいってなって、審判も何のことかわからんからプレー続けてるんですよ。
審判に日本語で「タイム、タイム、タイム、足あかん」って言ったら、「ピッー」て試合が止まって、観客が「櫛田の足おかしなってる」って気づいて、チームのトレーナーがベンチからすっ飛んで来て。
担架で運ばれて、ハーフタイムのときにちょうど救急車が来た。ハーフタイムのときにみんな観客とかも下りてきてくれて、救急車のところで、何言ってるかわかんないですけど、がんばれよーだったか、ナイスファイトやったーだか言ってくれて、そんな感じでそのまま病院です。
- そのときは、どういう気持ちなのでしょうか?
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「これからどうやって生きて行けばいいんやろ?」っていうのが本当に一番でしたね。前年優勝できて、2シーズン目もケガする前の試合で決勝ゴール決めたりしてたんですよ。めちゃめちゃ調子良くて……。
病院連れて行かれても、ドイツ語の医療用語は分かんないですし、何か手術か入院かさせてくれるのかなと思ったら、自宅に帰されたんですよ、結局。ベッドが空いてないか何か分かんないですけど。
自宅に帰されて、夜中になって、さすがに足がパンパンに腫れてきて、むちゃくちゃ痛いんですよ。夜中に目覚めてトイレ行こうと思っても、もう血が全部ここ(左膝)に行ってるからか分かんないですけど、膝がパンパンに腫れて気持ち悪いことになってて。
でも、寝返り1つ打ってトイレに行くだけに1時間ぐらいかかって、汚い話ですけど、ションベン漏れそうやし、ボロボロボロボロ泣けてきて。「もうほんまにどうしよう」って。
- その後、病院に入院されたのでしょうか?
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そうですね。3日?4日後にもう1回チームのスタッフと病院に行って、初めてMRIやらレントゲン撮ったら、そこでスタッフが「ああもう、あかんわぁ」みたいな感じのリアクション。医者からも「もう日本に帰って、余生は釣りでもしたら?」と言われました。
普通、膝って前十字靱帯と、後十字靱帯と、内側と、外側と、半月板ってあって、どれか1つ傷めても大変なのに、僕はこれ全部をやってしまった。だからもう完全にグラグラで。
膝って三次元的な動きをするじゃないですか。だから、靱帯がこれだけ切れたら、もう軸が取れないんです。医者も「たぶん自分ではまっすぐ歩けないよ。ハンドなんてもうあり得へん、あり得へん」みたいなニュアンスでしたね。それを聞いた途端、やっぱりチームのスタッフは、ああこれもうおってもしゃあないから、どのタイミングで日本帰すかなぁとか、契約どうするかなぁっていうシビアな話をしていたみたいです。それは雰囲気でなんとなく分かりましたね。
- 日本に連絡取られましたか?
- 靱帯をつなぐ手術を日本でするのか、ドイツに残ってするのかも、最初は自分だけで判断できなかったので、大学の恩師の蒲生監督に連絡をして、心当たりのあるドクターとか聞いたりしました。ドイツに行く直前頃に医大生のハンドボールチームのコーチをさせてもらっていた縁があったので、そこの先生にも直接聞いたら、「今このタイミングで帰るとエコノミー症候群になるから、ドイツでやった方がいい」っていうのと、「ドイツの外科医療は世界最先端だからドイツで手術した方がいい」って言われたので、残って手術することにしました。